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【アラベスク】  第12章 マジカル王子様



第3節 キューピッドの矢の行方 [3]




 キッパリと答えるツバサの言葉が、美鶴の胸に突き刺さる。
「知られたら嫌われるかもしれないなんて、そんな事考えながらコウと一緒にいるのって、なんだかコウに悪いような気がする」
「だったら自分の本当の姿を見せるべきだよ」
「だから、見せられるような自分になりたいんだよっ」
 やや苛立ったような口調に、美鶴はムッと唇を尖らせる。
「本当の自分を堂々と見せられるような、そんな自分になりたいんだよ」
「本当の自分なんて、創るもんでもないでしょう?」
「創るんじゃなくって、変えるんだよ」
 なんでわからないのかと言いたげなツバサ。
「醜いって自分でわかっていながらそれを開き直るように彼氏に見せて、受け入れてくれって頼んで、挙句の果てに嫌われたら、あの男は本当の私を見てくれない人だ、なんて言いがかりをつける。そんなの嫌なんだ」
 醜いとわかっていて開き直る。本当の自分を見てくれないという言いがかり。
 美鶴は、言い返せなかった。
 ようやく口を閉じた相手にツバサも冷静さを取り戻し、きまり悪そうに頭を掻く。
「ごめん、言い過ぎた」
「いや、こっちこそ」
 お互い口ごもりながら、俯く。
「ごめんね。実はさ、昨日ちょっと金本くんにも言われちゃって、ちょっと頭が混乱してて」
「は? 聡に?」
 思わず顔をあげた美鶴は、だがすぐにツバサから視線を外す。
 学校で同級生の噂話を聞いた。ツバサと聡が昨日の放課後、言い争っていたらしい。場所は駅舎の近くだったとか。
 私が智論さんの話を聞いている時かな?
 美鶴の態度にツバサが苦笑する。
「別に喧嘩ってほどでもないよ。ただちょっとお互い熱くなっちゃって」
 言いながらまたガシガシと頭を掻く。
「私がコウの気を引こうとして姑息な手を使ってる、みたいな言い方されたからさ、だからこっちもカチンってきちゃって」
「はぁ? 蔦の気を引く? 姑息な手?」
 そんな美鶴の言葉にツバサはガバリと身を乗り出す。
「ねぇ、美鶴」
「何?」
「美鶴さ、滋賀で私が話した事、誰かに話した?」
「は? 滋賀での話? お兄さんの事?」
「それもあるし、その、駐車場で話した事とか」
 語尾を言い澱ませる相手の態度に、美鶴は首を捻る。
 駐車場での話? ツバサのお母さんの事とか、お兄さんへの嫉妬みたいなモンとか、あとは、コウと里奈の関係を気にしてしまうとか。
「話してないよ」
 思い出しながら答える。そもそも、滋賀へ行った事自体、誰にも話してはいない。
「誰にも言ってない」
「ホント?」
「言ってないよ。誰に言うんだ?」
 逆に問われ、ツバサは口を閉じる。
 美鶴が話してないのなら、金本くんは何で知ってるんだろう?

「知ってるぜ。お前がコイツと蔦との関係をあれこれイジイジ気にしてるってさ」

 腑に落ちない様子のツバサ。
「何? 聡に何か言われたのか?」
「いや、別にそういうわけではないけど」
 何のこっちゃ?
 首を捻りながら、だがなんとなく状況は納得できなくもない。
 どうせ聡のアホが何かを早合点をして誤解してギャーギャー喚いたんだろう。アレは昔からそんなトラブルを数多く起こしてきたからな。
「気にするな」
 うんざりとため息を吐く。
「アレの言う事にいちいち耳を貸していたらキリがない」
「おっ 言うね」
 ツバサが悪戯っぽく笑う。
「さすが幼馴染。山脇くんが聞いたら目くじら立てそうだね」
「蹴るぞ」
 本気で不機嫌そうな美鶴にツバサはひょいっと肩を(すく)める。そうして、今度は弱々しく瞳を細めた。
「でもさ、金本くんの言ってる事も、まんざら間違ってないかな、とも思えるんだ」
「何? あんたが蔦の気を引こうとしてるって話?」
 美鶴の言葉に頷く。
「昨日さ、シロちゃんを連れて駅舎へ行ったんだ」
「え?」
 シロちゃんという名前に、美鶴はさすがに動揺を隠せない。
「里奈?」
「うん。美鶴に会いたいって言うからさ、連れて行ってあげたんだ」







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